立正大学・産業技術総合研究所・琉球大学を中心とする国際共同研究チームの研究による、ウミエラ類の特徴的な進化パターンの発見と共通祖先の新たな仮説を提唱した論文が国際学術雑誌PeerJから出版されました。本学科の遺伝子解析システムを用いることで、多様な生物の進化に関する研究が可能です!

プレスリリース2

<発表のポイント>

◆ウミエラ類およびその骨片の多様化は水深と関係があることが明らかとなり、異なる環境に進出するタイミングで骨片の多様化が生じている進化パターンを明らかにしました。

◆ウミエラ類の共通祖先がPseudumbellulidae(プセウドウンベルリダエ科)の種に似るという新たな説が提唱されました。
◆知名度の低いマイナーな分類群の進化史の解明は十分に進んでおらず、本研究は、生態系エンジニアとして、近年その重要性が認められてきた海洋無脊椎動物の多様性創出のしくみについて理解する礎となる研究です。

<発表概要>

立正大学地球環境科学部環境システム学科、産業技術総合研究所の櫛田優花助教(元:琉球大学)と琉球大学理工学研究科海洋環境学専攻のJames Davis Reimer准教授を中心とする、国際共同研究チーム(日本・マレーシア・スペイン・オーストラリア)による研究成果が国際学術雑誌「PeerJ」に掲載されました。研究チームは、八放サンゴ亜綱ウミエラ目における生息水深帯の変遷に伴う骨片の適応と進化の傾向を明らかにする研究に取り組み、浅海域~深海域に生息するウミエラ類を網羅的に採集し、形態観察・分子系統解析・祖先形質の復元解析・統計解析を実施しました。その結果、ウミエラ類およびその骨片のかたちの多様化が異なる水深帯への進出に関係することが明らかとなりました。また、本研究では骨片形状はその進化史や、水温や周囲の化学的環境に影響を受けていることが示唆されました。加えて、ウミエラ類の共通祖先がPseudumbellulidae(プセウドウンベルリダエ科)の種と類似することが形態および遺伝子解析の証拠から仮説立てられ、ウミエラ目における進化史について礎となる重要な知見を提供しました。

本研究は、立正大学、産業技術総合研究所、琉球大学、筑波大学、東京大学、海洋研究開発機構、八放サンゴ研究室、三重大学、黒潮生物研究所、鹿児島大学、沖縄美ら海水族館(沖縄美ら島財団)、Universiti Kebangsaan Malaysia、University of Vigo、Western Australian Museum・University of Western Australiaに所属するメンバーによって実施されました。

研究の背景

ウミエラ類(注1)は世界中の浅海から深海まで広く生息し、近年、その生態学的重要性が明らかとなっていますが、扱いの難しさから基礎的知見が最も得られていない海洋生物のひとつです。そのため、ウミエラ目における種の多様化や適応進化は謎につつまれており、本研究では骨片(注2)と生息水深帯に着目した進化学的研究を行いました。

研究内容

本研究では、干潟での徒手採集、SCUBA潜水、底引き網やROV(注3)などの多様な手法を用い琉球列島を含む日本の浅海域から深海域までさまざまな水深からウミエラ類を採集しました。採集した標本および外国産の登録標本について、形態観察およびミトコンドリアの遺伝子における分子系統解析を行いました。特に後者では、ウミエラ類の多くの分類群を網羅した系統樹を構築しました。さらに、得られた分子系統解析の結果を基に、軸部(注4)の骨片の観察結果と生息水深帯を合わせて比較する祖先形質の復元と統計解析を行いました。

その結果、ウミエラ類およびその軸部内の骨片の多様化は生息水深と関係があることが明らかとなりました(骨片の形態は図2の写真を参照)。特に三翼状骨片は進化史の中で保存された特徴でしたが、その一方で、プレート状や滑らかな棒状や針状の骨片についてはウミエラ類が浅海域に進出するタイミングで獲得するという特徴的なパターンを発見しました(図2)。さらに、骨片の形状はその進化的背景および周囲の海水の化学環境、特に水温と関係がある可能性が示唆されました。

また本研究ではウミエラ類の共通祖先について、形態と遺伝子解析の証拠から、深海性であり、ウミエラ類がもつ三翼状骨片と近縁種(石灰軸亜目ヤギ類)がもつ紡錘状骨片との中間型の骨片(のこぎり状の歯をつけた三翼状骨片)をもつ、Pseudumbellulidae(プセウドウンベルリダエ科)の種に似ていたことがはじめて仮説として提唱されました(図3)。

本研究から以下の進化のシナリオが考えられます:

(1)ウミエラ類の共通祖先は深海域に生息し、ウミエラ類がもつ三翼状骨片と近縁種であるヤギ類がもつ紡錘状骨片との中間型の骨片(のこぎり状の歯をつけた三翼状骨片)をもっていた。

(2)ウミエラ類の骨片はのこぎり状の歯を失って単純化し、三翼状骨片が優占した。

(3)異なる環境への進出(例:浅海域への進出など)に伴い、多様な骨片形態(プレート状、滑らかな棒状と針状、紡錘状、骨片をもたないもの)が現れた。

意義・展望

本研究は、ウミエラ目における進化学研究の礎となる数多くの知見を提供しました。近年、他の海洋生物にすみかや隠れ家を提供するとして、ウミエラ類の生態学的重要性が認識されはじめましたが、多様性創出のしくみに関してはほとんどわかっていません。海洋における生物多様性を考える上で、このような見過ごされてきたマイナー分類群の基礎的知見の拡充は今後も必要です。

本研究チーム構成員

櫛田優花(立正大学・産業技術総合研究所、元:鹿児島大学・琉球大学)

今原幸光(産業技術総合研究所・黒潮生物研究所・八放サンゴ研究室)

Hin Boo Wee(Universiti Kebangsaan Malaysia)

Iria Fernandez-Silva(University of Vigo)

Jane Fromont(Western Australian Museum)

Oliver Gomez(Western Australian Museum)

Nerida Wilson(Western Australian Museum・University of Western Australia)

木村妙子(三重大学)

土田真二(海洋研究開発機構)

藤原義弘(海洋研究開発機構)

東地拓生(沖縄美ら海水族館(管理運営:一般財団法人沖縄美ら島財団))

中野裕昭(筑波大学下田臨海実験センター)

幸塚久典(東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所)

井口亮(産業技術総合研究所)

James Davis Reimer(琉球大学)

<用語解説>

注1 ウミエラ類:刺胞動物門花虫綱八放サンゴ亜綱中で唯一海洋の砂泥底に生息する底生動物(ウミエラ目)。世界には200種以上が生息する。

注2 骨片:体の各部に含まれ、炭酸カルシウムから成る微小な結晶。形や大きさが分類をする上で重要。体を支え、捕食者からの防御に役立つと考えられている。

注3 ROV:無人潜水機(Remotely Operated Vehicle)。

注4 軸部:群体をポリプ(個虫)がでている上部と砂泥中に埋没する下部に分けたときの上部。

 

<論文情報>

  • Exploring the trends of adaptation and evolution of sclerites with regards to habitat depth in sea pens (ウミエラ目における生息水深の変遷に伴う骨片の適応と進化の傾向の探索)
  • PeerJ
  • Yuka Kushida*, Yukimitsu Imahara, Hin Boo Wee, Iria Fernandez-Silva, Jane Fromont, Oliver Gomez, Nerida Wilson, Taeko Kimura, Shinji Tsuchida, Yoshihiro Fujiwara, Takuo Higashiji, Hiroaki Nakano, Hisanori Kohtsuka, Akira Iguchi, James Davis Reimer.
  • https://doi.org/10.7717/peerj.13929

国立研究開発法人産業技術総合研究所・環境調和型産業技術研究ラボ(E-code)および文部科学省東北マリンサイエンス拠点形成事業JPMXD1111105260の支援を受けて実施しました。

スクリーンショット (236)

図1. ウミエラ類の例。多様なかたちの種が含まれる。

プレスリリース

図2. 分子系統樹を基にした祖先形質復元の模式図。共通祖先は400 m以深の深海に生息し、三翼状構造の骨片をもつ。分子系統樹を基に、各祖先の生息深度帯と骨片形状を同時に比較することにより、プレート状骨片や滑らかな棒状・針状骨片が浅海域に進出すると同時に獲得されるなどの進化パターンが明らかとなった。

スクリーンショット (239)

図3. ウミエラ類の共通祖先に類似すると考えられるPseudumbellulidae(プセウドウンベルリダエ科)の一種。下図右下(Ra)が軸部におけるのこぎり状の歯をつけた三翼状骨片。

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